ブログ

【労務】未払い残業代が2倍になる? 労働基準法の「付加金」とは

2026年07月31日 08:31

残業代の未払いが発覚した場合、会社が支払うのは、未払いになっていた残業代だけ

とは限りません。

労働者が裁判を起こした場合、裁判所から、未払い金とは別に「付加金」の支払いを

命じられることがあります。

例えば、未払い残業代が100万円あるケースで、裁判所が同額の付加金を命じれば、

会社は未払い残業代100万円に加えて、付加金100万円を支払うことになります。

さらに、遅延損害金や弁護士費用などの負担が生じることもあります。

「未払い残業代を後から払えば済む」

このような認識で労働時間や給与計算の問題を放置することは、非常に危険です。

付加金とは

付加金とは、労働基準法に違反して一定の金銭を支払わなかった会社に対し、労働者の請求によって、

裁判所が未払い金とは別に支払いを命じることができる金銭です。

労働基準法第114条では、裁判所は労働者の請求により、会社が支払わなかった金額と同一額までの

付加金を命じることができると定めています。

付加金には、会社による労働基準法違反を抑止し、労働者への支払いを確実にする役割があります。

大阪地方裁判所も、残業代を支払わなかった会社に対し、労働者の請求により、裁判所が残業代と

同額の付加金を命じることができると案内しています。

どのような未払いでも付加金の対象になるのか

すべての賃金の未払いが、付加金の対象になるわけではありません。

労働基準法第114条で対象とされているのは、主に次の金銭です。

解雇予告手当

会社が労働者を解雇する場合、原則として30日前までに予告する必要があります。

30日前までに予告しない場合は、不足する日数分の平均賃金を、解雇予告手当として支払わなけれ

ばなりません。

この解雇予告手当を支払わなかった場合、付加金の対象になる可能性があります。

休業手当

会社側の都合によって労働者を休業させた場合、原則として平均賃金の60%以上の休業手当を

支払う必要があります。

支払うべき休業手当を支払っていなければ、付加金の対象になる可能性があります。

時間外・休日・深夜労働の割増賃金

法定労働時間を超える時間外労働、法定休日の労働、深夜労働に対しては、法律で定められた

割増賃金を支払う必要があります。

一般に付加金が問題となりやすいのが、この未払い残業代のケースです。

固定残業代の設計が不適切だった場合や、始業前・終業後の作業を労働時間に含めていなかった場合、

まとまった未払い残業代が発生することがあります。

年次有給休暇を取得した日の賃金

労働者が年次有給休暇を取得した日について、法律上支払うべき賃金を支払っていなかった場合も、

付加金の対象となる可能性があります。

一方で、通常の月給や基本給、賞与などの未払いが、すべて当然に労働基準法第114条の付加金の

対象となるわけではありません。

どの種類の金銭が未払いになっているのかを区別して考える必要があります。

付加金は自動的に発生するものではありません

残業代の未払いがあれば、その時点で自動的に付加金の支払義務が確定するわけではありません。

付加金については、労働者が裁判で請求し、裁判所が支払いを命じることによって問題となります。

労働基準監督署から是正勧告を受けたからといって、監督署が付加金の支払いまで命じるわけでは

ありません。

また、裁判所が必ず未払い金と同額の付加金を命じるとも限りません。

労働基準法第114条は、裁判所が付加金の支払いを「命ずることができる」と定めています。

そのため、違反の内容や程度、未払いに至った経緯、会社の対応、訴訟までに支払いが行われたかなど、

さまざまな事情を踏まえて判断されます。

つまり、

「未払い残業代が100万円なら、必ず合計200万円になる」

という単純な制度ではありません。

しかし、会社に重大な違反があり、未払いを長期間放置していた場合などには、付加金を命じられる

リスクがあることを理解しておく必要があります。

付加金を請求できる期間

付加金には、請求できる期間があります。

2020年4月1日に施行された改正労働基準法では、付加金を請求できる期間が、賃金請求権の期間に

合わせて5年に延長されました。

ただし、経過措置により、現在は当分の間3年とされています。厚生労働省も、付加金の請求期間について、

法令上5年に延長しつつ、当分の間は3年になると案内しています。

付加金の請求を受ける可能性を考える際は、未払い賃金の請求期間とあわせて確認しなければなりません。

未払い残業代100万円なら、最大200万円になる?

例えば、裁判で100万円の未払い割増賃金が認められたとします。

裁判所が同額の付加金を命じた場合、会社の負担は次のようになります。

未払い割増賃金 100万円
付加金     100万円
合計      200万円

ただし、付加金は未払い金と同額が上限であり、必ず上限額が命じられるものではありません。

また、実際には遅延損害金などが加わる可能性もあります。

さらに、一人分の計算方法が間違っていた場合、同じ給与制度を適用しているほかの従業員にも未払いが

生じていることがあります。

その結果、会社が負担する金額が想定以上に大きくなるケースもあります。

会社が「知らなかった」では済まされない

未払い残業代が発生する原因は、会社が意図的に残業代を払わなかったケースだけではありません。

例えば、次のような運用でも未払いが発生することがあります。

  • 固定残業代の金額や対象時間が明確になっていない

  • 固定残業時間を超えた分を支払っていない

  • 管理職には残業代が不要だと思い込んでいる

  • 始業前の準備や終業後の片づけを労働時間にしていない

  • 昼休み中の電話番を休憩として処理している

  • 研修や朝礼の時間を労働時間から除外している

  • 残業時間を15分や30分単位で一律に切り捨てている

  • 割増賃金の計算基礎から、本来含めるべき手当を除外している

  • 勤怠記録と実際の勤務時間が一致していない

  • 法定休日と所定休日を区別せずに計算している

会社が「この計算で合っていると思っていた」としても、法律上支払うべき割増賃金が不足していれば、

未払いの問題は残ります。

給与計算を長年同じ方法で行っている会社ほど、一度計算方法を点検する必要があります。

固定残業代があっても安心できません

「うちは固定残業代を払っているから、未払い残業代は発生しない」

そう考えている会社もあります。

しかし、固定残業代を導入していても、制度の設計や運用に問題があれば、残業代を支払ったものと

認められない可能性があります。

基本給と固定残業代の区分が明確になっているか。

固定残業代が何時間分なのか明示されているか。

固定残業時間を超えた分を追加で支払っているか。

最低賃金を下回っていないか。

雇用契約書、就業規則、給与明細の記載が一致しているか。

これらが適切に整備されていなければ、会社は固定残業代を支払っていたつもりでも、裁判で有効性を

否定されるリスクがあります。

その場合、未払い残業代の請求に加えて、付加金を請求される可能性も出てきます。

退職後に請求されることもあります

在職中は会社に何も言わなかった従業員が、退職後に未払い残業代を請求することがあります。

会社側は、

「本人から一度も不満を聞いていなかった」

「残業時間について合意していた」

「これまで誰からも請求されたことがない」

と戸惑うかもしれません。

しかし、在職中に異議を述べなかったことだけで、未払い残業代を請求できなくなるわけではありません。

退職後、勤怠記録、パソコンの使用履歴、メールの送信時刻、業務日報、入退館記録などをもとに、

労働時間を主張されるケースもあります。

請求を受けてから慌てて確認するのではなく、日頃から労働時間を適正に把握し、正しく賃金を計算する

ことが重要です。

付加金のリスクを防ぐために会社が確認すべきこと

会社は、少なくとも次の点を確認しておきましょう。

  • 労働時間を客観的な方法で把握しているか

  • 始業前や終業後の作業を適切に記録しているか

  • 休憩中に電話や来客対応をさせていないか

  • 固定残業代の設計と記載内容に問題がないか

  • 管理監督者の範囲を広く取りすぎていないか

  • 割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算しているか

  • 法定休日労働と時間外労働を正しく区別しているか

  • 残業時間を不適切に切り捨てていないか

  • 給与計算の方法と就業規則の内容が一致しているか

  • 未払いが判明した場合に、速やかに事実確認と是正を行っているか

付加金を避けるための最も確実な方法は、未払いを発生させないことです。

未払いが見つかってからでは遅い

残業代の計算方法や労働時間の管理は、社内で長年続けていると、それが正しい運用なのか判断

しにくくなります。

「昔からこの方法で計算している」「給与ソフトが自動で計算している」

「税理士や給与担当者から指摘されたことがない」これだけでは、労働基準法上の問題がないとは限りません。

給与ソフトは、会社が設定した条件に従って計算するだけです。

そもそもの労働時間の集計方法や、割増賃金の計算条件が間違っていれば、毎月同じ間違いを繰り返すこと

になります。

未払い残業代を請求され、裁判になってから見直すのでは、会社の金銭的負担だけでなく、対応にかかる

時間や信用への影響も大きくなります。

労務監査で未払い賃金のリスクを確認しませんか

未払い残業代や付加金のリスクは、問題が表面化するまで会社自身では気づきにくいものです。

そこで有効なのが、労務監査です。

労務監査では、次のような資料や運用を確認します。

  • 雇用契約書

  • 就業規則

  • 賃金規程

  • タイムカードなどの勤怠記録

  • 給与明細

  • 固定残業代の設計

  • 割増賃金の計算方法

  • 休憩時間の運用

  • 管理監督者の取扱い

  • 残業申請と実際の勤務状況

書類が整っているかを確認するだけではありません。

規程に書かれている内容と、現場の働き方や給与計算が一致しているかまで確認することが重要です。

「未払い残業代が発生していないか不安」

「固定残業代の設計が正しいか確認したい」

「勤怠管理と給与計算を一度点検したい」

「退職者から請求される前に問題を把握したい」

このような会社は、一度、労務監査を受けてみてはいかがでしょうか。

付加金は、会社が未払いを把握してから慌てて対応するための制度ではありません。

請求や裁判に発展する前に、労働時間と賃金計算の問題を発見し、正しい運用へ改善することが、

会社と従業員の双方を守ることにつながります。



対応地域:全国対応
主な対応地域:尼崎市、西宮市、大阪市、伊丹市、兵庫県、大阪府
対応方法:チャットワーク、メール、オンライン面談、電話、訪問