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労働条件通知書・雇用契約書が会社を守る理由

2026年07月21日 08:23

「給料が聞いていた金額と違う」「土曜日は休みだと思っていた」

「残業はほとんどないと説明された」「正社員として採用されたはずなのに、契約社員になっている」

入社後に、このような話が出てくることがあります。

会社側は、

「面接で説明した」「本人も納得していた」「今まで同じ条件で問題にならなかった」と主張します。

一方、社員は、

「そんな説明は受けていない」「聞いていた内容と違う」と主張する。

こうなると、最後は「言った・言わない」の争いです。

このトラブルを防ぐために重要なのが、労働条件通知書です。

労働条件通知書は、採用手続きのために形式的に渡す紙ではありません。

会社と社員が、どのような条件で働くことを約束したのかを記録する大切な書類です。

労働条件通知書は会社の義務

会社が労働者を雇い入れるときは、賃金、労働時間、契約期間などの労働条件を明示しなければなりません。

特に、契約期間、就業場所、仕事内容、始業・終業時刻、休日、賃金、退職に関する事項など、

重要な項目については、原則として書面などによる明示が必要です。

2024年4月からは、すべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」が明示事項に追加されました。

有期契約労働者については、更新上限、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件などについても、

該当するタイミングでの明示が必要です。

大事なのは「渡したか」より「中身が合っているか」

労働条件通知書を渡していても、内容が実態と合っていなければトラブルは防げません。

例えば、次のような書き方です。

  • 就業時間は「シフトによる」とだけ書いている

  • 休日は「会社カレンダーによる」とだけ書いている

  • 仕事内容は「会社の定める業務」としか書いていない

  • 固定残業代の金額や対象時間数が分からない

  • 契約更新の基準が曖昧

  • 試用期間中の賃金が書かれていない

  • パート社員の昇給や賞与の有無が分からない

  • 雇用契約書と就業規則の内容が違う

このような通知書では、会社と社員が同じ条件を理解しているとは限りません。

通知書を交付した事実だけで安心せず、読んだ人が実際の働き方を理解できる内容になっているか

確認することが重要です。

求人票と労働条件通知書が違う

求人票には、

「月給25万円」「年間休日120日」「残業は月10時間程度」

と書いていた。

ところが、入社時の労働条件通知書を見ると、

「基本給20万円、固定残業代5万円」

「土曜日は会社カレンダーにより出勤」

「業務の都合により残業あり」

となっている。

会社側は同じ条件のつもりでも、応募者から見れば話が違うと感じる可能性があります。

求人票は募集時点の条件を示すものであり、最終的な労働条件は雇用契約を結ぶ際に

改めて明示する必要があります。

求人内容から条件が変わった場合は、変更点を分かりやすく説明し、本人の納得を得たうえで

契約することが重要です。

求人票、面接時の説明、労働条件通知書、就業規則の内容がバラバラでは、入社直後の退職や

採用トラブルにつながります。

固定残業代の書き方が曖昧

「月給30万円。残業代を含む」

これだけでは、何円が固定残業代なのか、何時間分なのかが分かりません。

固定残業代を採用するのであれば、少なくとも、

  • 固定残業代を除いた賃金

  • 固定残業代の金額

  • 何時間分の時間外労働に対応するのか

  • 対象時間を超えた場合は追加で支払うこと

を明確にする必要があります。

何も書かず、給与明細に「職務手当」とだけ記載している会社もあります。

会社は残業代として払っているつもりでも、社員には伝わっていません。

労働条件通知書が曖昧であれば、後から未払い残業代のトラブルになった際に、会社が固定残業代の

合意内容を説明できなくなるおそれがあります。

試用期間中の条件を書いていない

「試用期間は3か月です」

面接ではそう説明したものの、試用期間中は給料が低くなることや、手当が支給されないことを伝えていない。

入社後、最初の給与明細を見た社員から、

「聞いていた金額と違う」と言われる。

これもよくあるトラブルです。

試用期間中に本採用後と異なる労働条件を適用するのであれば、その内容を採用時に明確にしておく必要があります。

  • 試用期間の長さ

  • 試用期間中の賃金

  • 手当や賞与の取扱い

  • 本採用後に変更される条件

などを具体的に書いておきましょう。

「試用期間だから条件が違って当然」という会社側の感覚だけでは通用しません。

契約社員の更新基準が書かれていない

有期契約社員の通知書に、

「契約期間は1年間」とだけ書いている会社があります。

しかし、社員が本当に知りたいのは、

「契約は更新されるのか」「何を基準に判断されるのか」

という点です。

更新については、

  • 自動的に更新する

  • 更新する場合がある

  • 契約を更新しない

などを明確にしたうえで、更新する可能性がある場合は、勤務成績、能力、会社の経営状況、

担当業務の進捗などの判断基準を具体的に記載します。

2024年4月以降、有期労働契約について更新回数や通算契約期間の上限を設ける場合は、その有無と

内容の明示も必要です。

更新基準が曖昧なまま雇止めを行うと、社員から、「今までずっと更新されていた」

「更新されると聞いていた」と争われる可能性があります。

「仕事内容」を広く書きすぎる

仕事内容の欄に、「会社の指示する業務」とだけ記載しているケースがあります。

確かに、将来の配置転換を考えると、業務を細かく限定したくない会社の気持ちは分かります。

しかし、あまりに広い書き方では、社員が何の仕事で採用されたのか分かりません。

事務職として採用した社員に、入社後突然、営業や現場作業を命じれば、

「採用時の話と違う」となる可能性があります。

2024年4月からは、雇入れ直後の就業場所・業務内容だけでなく、将来変更される可能性のある範囲も

明示する必要があります。

例えば、

  • 雇入れ直後:経理事務

  • 変更の範囲:会社の定める事務業務

というように、実際に想定している異動範囲を整理して記載します。

「何でもさせられるように広く書いておこう」という発想ではなく、会社の人事異動の実態に合った表現が必要です。

労働条件通知書と就業規則が食い違っている

労働条件通知書には、

「土曜日・日曜日・祝日休み」と書いている。

一方、就業規則には、「休日は日曜日および会社が指定する日」と書いている。

さらに実際の勤務表では、月に2回土曜日出勤がある。これでは、どれが正しい条件なのか分かりません。

ほかにも、

  • 通知書では賞与あり、規程では業績により不支給

  • 通知書では退職金あり、退職金規程が存在しない

  • 通知書では固定残業代あり、賃金規程に記載がない

  • 通知書では土日完全週休2日、実際は1か月単位の変形労働時間制

  • パート通知書の有給休暇欄が空欄

といった食い違いがあります。

労働条件通知書だけを整えても、就業規則、賃金規程、給与計算、勤務シフトと一致していなければ

意味がありません。

パートだから簡単な通知書でよいと思っている

「パートなので、時給と勤務時間だけ書けばよい」

これは危険です。

パートやアルバイトであっても、契約期間、仕事内容、勤務場所、労働時間、休日、賃金、退職などの

条件を明確にする必要があります。

さらに短時間労働者については、昇給、賞与、退職手当の有無や、相談窓口などについても明示が必要です。

よくあるのが、

「賞与は寸志程度なら出ることもある」「昇給は社長の判断」「勤務日数は忙しさによって変わる」

という曖昧な運用です。

本人は「賞与あり」と理解し、会社は「必ず支給するとは言っていない」と考える。

この認識のずれがトラブルになります。

パート社員ほど勤務日数や時間が一人ずつ異なるため、むしろ個別の条件を正確に書く必要があります。

労働条件通知書が会社を守る3つの理由

1.「言った・言わない」を防げる

面接時の説明だけでは、時間がたつと双方の記憶が曖昧になります。

書面に残しておけば、会社と社員が合意した条件を確認できます。

2.給与計算や勤怠管理の基礎になる

基本給、固定残業代、通勤手当、勤務時間、休日などが明確でなければ、給与計算も正しくできません。

通知書の内容が給与ソフトや勤怠システムの設定と一致しているか確認する必要があります。

3.採用後の早期退職を防ぎやすくなる

入社してから条件の違いに気づけば、社員の会社に対する信頼は一気に失われます。

採用時に条件を丁寧に説明することは、定着対策でもあります。

労働条件通知書は、会社を縛るためだけの書類ではありません。

社員に安心して働いてもらうための説明資料でもあります。

署名をもらえば何を書いても有効になるわけではない

労働条件通知書や雇用契約書に社員の署名があれば、どのような条件でも有効になるわけではありません。

例えば、

  • 残業代は一切支給しない

  • パートには有給休暇を与えない

  • 退職時には最後の給与を支給しない

  • 会社が必要と判断すれば自由に賃金を下げられる

といった法律を下回る条件は、本人が同意していても、そのまま有効になるとは限りません。

署名をもらうことだけを目的にせず、内容そのものが法令や就業規則に合っているかを確認する必要があります。

労働条件通知書は「採用時の設計図」

労働条件通知書は、採用時に一度だけ作って保管する紙ではありません。

その後の、

  • 給与計算

  • 勤怠管理

  • 契約更新

  • 配置転換

  • 昇給

  • 賞与

  • 退職

といった労務管理の出発点になります。

採用時の条件が曖昧であれば、その後の管理もすべて曖昧になります。

逆に、採用時に条件を整理しておけば、給与計算や契約更新もスムーズになり、社員から質問を受けたときにも

一貫した説明ができます。

トラブルになる前に内容の見直しを

次のような会社は、一度、労働条件通知書を確認したほうがよいでしょう。

  • 数年前に作った様式を使い続けている

  • インターネットのひな形をそのまま使っている

  • 求人票と通知書の条件が違う

  • 固定残業代の記載が曖昧

  • 試用期間中の条件を書いていない

  • 有期契約の更新基準が曖昧

  • 就業規則と通知書が一致していない

  • 社員ごとの働き方と記載内容が違う

  • 入社後に通知書を渡している

「これまで問題にならなかった」という理由だけで、今後も大丈夫とは限りません。

社員が退職するとき、残業代を請求するとき、雇止めに納得できないときに、初めて労働条件通知書の

内容が詳しく確認されることがあります。

そのときに慌てるのでは遅いのです。

秋山社会保険労務士事務所では、会社の実際の勤務形態や賃金制度を確認したうえで、労働条件通知書や

雇用契約書の作成・見直しを行っています。

固定残業代、試用期間、有期契約の更新、業務や勤務場所の変更範囲などを整理し、就業規則や賃金規程との

整合性も確認します。

労働条件通知書を「採用時に渡すだけの紙」で終わらせず、会社と社員を守る書類として整備しておきましょう。



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