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【労務】その3%の昇給、本当にその社員に必要ですか?―キャリアアップ助成金を申請する前に考えてほしいこと

2026年08月27日 08:39

「この人を正社員にしたら、キャリアアップ助成金を受給できますか?」

よくあるご相談です。もちろん、要件を満たして活用できる助成金であれば、活用すること自体に問題は

ありません。

しかし、キャリアアップ助成金の正社員化コースを検討するとき、私は「いくら助成金がもらえるか」だけを

見て進めるのは危険だと考えています。

なぜなら、正社員化コースでは、転換後の賃金を転換前より一定割合以上増額することなどが求められる

からです。

ここで一度考えてみてください。その3%の昇給、本当にその社員の能力や仕事に対する評価として必要な

昇給ですか?成金を受給するために給与を上げた結果、会社全体の給与体系を崩してしまっては、本末転倒です。

3%上げたら、先輩社員より給与が高くなった

例えば、勤続5年の正社員Aさん 月給20万円、勤続6ヶ月の契約社員Bさん 月給19万5,000円

だったとします。

Bさんを正社員へ転換し、助成金の要件を満たすために3%以上賃金を上げる。

すると、Bさんの給与は20万円を超えます。

結果として、勤続6ヶ月の社員が、勤続5年の先輩社員より高い給与をもらうという状態が生まれる可能性があります。

もちろん、Bさんの能力が高い、担当業務が難しい、責任が重いなど、会社として説明できる理由があるのであれば

問題ありません。

しかし、「なぜBさんの方が給与が高いのですか?」とAさんに聞かれたとき、「助成金をもらうために3%上げた

からです」では、人事制度として説明になりません。

では、先輩社員も昇給させますか?

Bさんだけ高くなるのはおかしい。それならAさんも給与を上げよう。

ところがAさんを上げると、その上の主任との給与差がほとんどなくなる。

では主任も上げよう。主任を上げると係長との差がおかしくなる。係長も上げよう。

こうして一人の正社員化をきっかけに、気が付けば、何人もの社員を昇給させることになります。

ここで初めて、助成金の本当のコストが見えてきます。

目先の40万円、80万円のために、毎月いくら払い続けますか?

助成金の金額を見ると、大きく感じます。

40万円。80万円。「これは申請した方が得だ」と思うかもしれません。

しかし、助成金は基本的に一時的な収入です。

一方、昇給した給与は一度払って終わりではありません。

翌月も払います。翌年も払います。その社員が働き続ける限り、継続的な人件費になります。

さらに給与が上がれば、会社負担の社会保険料が増える場合があります。

残業がある社員なら、基本給等の上昇によって残業単価にも影響する可能性があります。

賞与を基本給連動で決めている会社なら、賞与にも影響するかもしれません。

つまり会社が増やすのは、月給だけではありません。

賃金・社会保険料・残業代・賞与場合によっては退職金。こうした人件費全体に影響が波及します。

しかも一人だけでは終わらない

もっと怖いのはここです。

助成金対象者一人だけを3%上げて終われれば、まだ計算は簡単です。

しかし、その結果先輩社員との給与が逆転した。既存社員から不満が出た。

主任との差がなくなった。会社として給与バランスを維持するため、他の社員も昇給させる。

そうなると、助成金は一人分なのに、人件費増加は全社員分ということが起こります。

例えば10人の社員について、給与バランスを取るため平均6,000円ずつ月給を上げたとします。

毎月の賃金増加は6万円。年間なら72万円です。これだけで、1年で72万円。

3年なら216万円。5年なら360万円。しかもこれは給与だけの話です。

会社負担の社会保険料や、残業単価、賞与などへの影響は含めていません。

目先の助成金を受給するために給与体系を触った結果、数年後には助成金額をはるかに上回る人件費を

会社が負担している。そんなことになれば、

「あの40万円、80万円を取るために、結局いくら払うことになったんや?」という話になります。

助成金は一回。増えた固定費はその後も続く

経営者にとって最も重要なのはここです。助成金は、一度入金されればそれで終わります。

しかし人件費は固定費です。毎月発生します。

売上が良い月も。売上が悪い月も。仕事が少ない月も。会社は給与を支払います。

さらに会社負担の社会保険料も発生します。

だからこそ、一時的に入ってくる助成金と、将来にわたって発生する固定費を同じ土俵で考えてはいけません。

「80万円もらえるから得」ではなく、「この正社員化によって、今後3年、5年で会社はいくら負担するのか」

まで計算する必要があります。

そこまで計算して初めて、その助成金が本当に会社にとってメリットがあるのか判断できます。

能力評価で給与を決められなくなっていませんか?

もう一つ大きな問題があります。

本来、給与は、仕事をどこまでできるのか。どんな責任を負っているのか。どの程度会社に貢献しているのか。

資格や経験があるのか。役職に就いているのか。こうした要素を踏まえて決めるものです。

ところが、「助成金を受給するには3%以上必要だから」という理由で賃金を決め始めると、人事評価と給与が

切り離されていきます。

能力評価では18万円。でも助成金の要件上19万円必要。だから19万円。

別の社員はもっと仕事ができるのに18万5,000円。では、その社員も上げる。

こうしたことを繰り返していると、誰が何の理由でその給与になっているのか分からなくなります。

これは人事制度として非常に危険な状態です。

助成金のために賃金テーブルを壊していませんか?

等級制度や賃金テーブルを作っている会社なら、さらに慎重に考える必要があります。

本来であれば、1等級はいくら。2等級はいくら。主任はいくら。係長はいくら。

というように、役割や能力に応じて給与水準を設計します。

ところが助成金の3%増額を優先した結果、そのテーブルから外れる。

では助成金対象者だけ例外にしますか?

例外を作れば、他の社員にどう説明しますか?

助成金のために等級を一つ上げますか?

その社員は本当に、その等級の仕事ができますか?

一つの助成金申請のために例外を積み重ねていけば、

せっかく作った人事制度そのものが形骸化します。

一番怖いのは「何となく決まった給与」が増えていくこと

中小企業では、「人手不足だったから採用時に高くした」「辞めると言われたので3万円上げた」

「助成金を取るために上げた」「前の社長が手当を付けた」というように、その時々の事情で給与を

決めているケースがあります。

それを何年も繰り返すと、新人の方が先輩より高い。一般社員と主任の給与がほぼ同じ。

能力の高い社員より、助成金で正社員化した社員の方が高い。誰も給与額の根拠を説明できない。

そんな会社になります。

その状態で、「今後は人事評価制度を作って、能力に応じて給与を決めましょう」

と言っても簡単ではありません。

過去の場当たり的な給与決定が邪魔をするからです。

「助成金がゼロでも、この給与にしますか?」

キャリアアップ助成金の正社員化を検討するとき、私はこの質問が非常に重要だと考えています。

もし助成金が1円も出なくても、その人を正社員にしますか?

そして、助成金が1円も出なくても、その人を3%以上昇給させますか?

さらに、その給与額を、先輩社員や他の社員に説明できますか?

ここまで全部「はい」と言えるのであれば、その正社員化には会社としての理由があります。

そのうえで利用できる助成金があるなら、活用すればよいのです。

しかし、「助成金があるから正社員にする」「3%上げないともらえないから上げる」

というのであれば、一度考え直した方がよいかもしれません。

目先の助成金より、3年後・5年後の人件費を見てください

助成金を申請するとき、「いくらもらえるか」だけを見るのではなく、正社員化した後の年間給与はいくらなのか。

会社負担の社会保険料はいくら増えるのか。残業単価はどう変わるのか。

他の社員も昇給させる必要があるのか。その場合、会社全体の年間人件費はいくら増えるのか。

3年間ではいくらになるのか。5年間ではいくらになるのか。ここまで計算してください。

目先の40万円、80万円を取るために、会社全体で数百万円の固定費増を抱える。

それでは、「結局、何のために助成金を取ったんですか?」ということになりかねません。

助成金に会社を合わせない

本来の順番は、この人を正社員として育てたい。

この仕事を任せたい。この能力なら、この給与が妥当だ。既存社員とのバランスも取れている。

会社として今後もこの人件費を負担できる。その判断が先です。

その結果、「この正社員化ならキャリアアップ助成金も使える」となるのが自然です。

助成金を先に持ってきて、3%上げる。給与逆転が起きる。先輩も上げる。主任も上げる。

全社員の人件費が上がる。社会保険料も増える。そして数年後、

「助成金はとうの昔に使い切ったのに、人件費増だけがずっと残っている」では意味がありません。

秋山社会保険労務士事務所では「受給額」だけでは判断しません

秋山社会保険労務士事務所では、キャリアアップ助成金について、「申請できます」「いくら受給できます」

だけではなく、正社員化後の給与額、既存社員との給与バランス、賃金テーブル、昇給制度、賞与制度、

雇用契約書、就業規則・賃金規程、会社負担の社会保険料、今後の人件費負担まで考えることが重要だと考え

ています。助成金を受給できたことだけをもって、「得をした」とは限りません。

助成金は一時的な収入。人件費は継続的な固定費。この違いを忘れないでください。

キャリアアップ助成金の正社員化コースをご検討の会社様は、「いくら助成金がもらえるか」の前に、

「この3%昇給をきっかけに会社全体の給与を上げることになっても、3年後、5年後まで払い続けられるか」

を確認してみてください。

目先の助成金を取るために、会社の賃金制度と将来の固定費を壊してしまっては意味がありません。

助成金を取ることが目的ではありません。

会社が継続して雇用し、適正な人事制度を維持することが目的です。



対応地域:全国対応
主な対応地域:尼崎市、西宮市、大阪市、伊丹市、兵庫県、大阪府
対応方法:チャットワーク、メール、オンライン面談、電話、訪問
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