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【労務】なぜ「人手不足倒産」に至るのか④従業員が退職届を出したら「待って、月3万円給料上げるから」。なぜ最初から上げなかったのですか?

2026年08月23日 18:37

従業員から突然、退職の申し出がありました。長年会社を支えてきた社員です。

顧客のことも分かっている。現場のことも分かっている。

新人の教育もできる。その社員が辞めると、会社としては非常に困ります。

そこで社長が慌てて、「ちょっと待って。月3万円給料を上げるから、残ってくれへんか?」と引き留める。

こうした話は決して珍しいものではありません。

しかし、私はこの話を聞くたびに疑問に思います。その3万円、なぜ退職を申し出る前に上げなかったのでしょうか。

辞めると言った瞬間に、その社員の価値が3万円上がったのでしょうか?

昨日まで月給25万円だった社員。退職を申し出た途端、「28万円出すから残ってほしい。」と言われる。

社員からすれば、どう感じるでしょうか。「会社は、自分に28万円払ってでも残ってほしいと思っていた。」

それなら当然、次の疑問が出てきます。

「では、なぜ今まで25万円だったのですか?」

退職を申し出た瞬間に、その社員の能力が突然上がったわけではありません。

その日突然、売上への貢献度が上がったわけでもありません。

その日突然、重要な仕事を任されたわけでもありません。

昨日までと今日で、その社員自身は何も変わっていないのです。

変わったのは、「辞める」と言ったことだけです。

従業員を雑に扱っていませんか?

ここには、単なる賃金制度の問題だけではなく、もっと根深い問題が隠れていることがあります。

それは、「この人は辞めないだろう。」という会社側の甘えです。真面目だから辞めない。

文句を言わないから辞めない。家庭があるから辞めない。長く勤めているから辞めない。

そう思って、仕事内容や責任が増えていても給与はそのまま。感謝も伝えない。

評価もしない。処遇も見直さない。

そして、本人が本当に辞めると言った瞬間に、「困る!3万円上げるから残ってくれ!」となる。

これは社員から見れば、「辞めると言うまで、自分のことをまともに見ていなかったのか」

と感じても不思議ではありません。

こうした扱いの積み重ねこそ、私は「人を雑に扱う会社」の一つの特徴だと思います。

昇給を「機械のメンテナンス費用」のように考えていませんか?

製造業であれば、機械が故障しそうになれば修理します。調子が悪くなれば部品を交換します。

壊れて生産が止まったら困るから、メンテナンス費用をかけます。

しかし、従業員への昇給まで同じ感覚になっていないでしょうか。

「辞めそうになったから、給料を上げておこう。」

それでは、「機械が壊れそうだから修理代を出そう。」という発想とほとんど変わりません。

しかし、従業員は機械ではありません。会社が所有している道具でもありません。

ボタンを押せば動き続ける設備でもありません。

従業員には、心があります。感情があります。意思があります。

そして、「この会社でこれからも働くのか。」を自分で決める一人の人間です。

ここを忘れてはいけません。

機械なら、部品を交換すればまた動くかもしれません。

しかし、人間は違います。

一度、「この会社は自分を大切にしてくれていない。」と思えば、月3万円上げたところで気持ちが

戻らないことがあります。

むしろ、「辞めると言わなければ、この会社は自分を評価してくれなかった。」

という不信感だけが残ることすらあります。

給料は「辞めさせないための修理代」ではありません

昇給とは、本来、仕事内容が増えた。責任が重くなった。

能力が上がった。会社への貢献が増えた。

そうした変化を会社がきちんと見て、処遇へ反映するものではないでしょうか。

ところが、普段は何年も据え置き。退職届が出たら突然3万円アップ。

これでは、昇給が「これまでの仕事への評価」ではなく、「辞められると困るから払う費用」

になっています。

私は、ここに人手不足になる会社の大きな問題があると思います。

社員は、「自分の仕事を見てもらえている。」「頑張った分を評価してもらえている。」

「この会社でこれからどう成長していけるのか分かる。」そう思えるからこそ、会社に残ろうとします。

給与だけの問題ではありません。

しかし、給与は会社から社員に対する評価を示す非常に分かりやすいものでもあります。

「辞めると言った人だけ給料が上がる会社」になっていませんか?

さらに問題なのは、本人だけではありません。

会社の中で、「あの人、辞めるって言ったら3万円上がったらしいで。」

という話が広がったらどうなるでしょうか。毎日真面目に働いている社員。

難しい仕事を引き受けている社員。新人を教育している社員。

会社が忙しいときに支えてきた社員。その人たちは、こう思うかもしれません。

「黙って真面目に働いている人間が一番損やん。」

そして、「自分も一回、辞めると言ってみようか。」となる。

これでは、人事評価でも賃金制度でもありません。「退職カードを切った者勝ち」の会社です。

一人を引き留めるための3万円が、次の退職者を生む

社長としては、その社員を失いたくない一心だったのでしょう。しかし、一人だけ突然給与を上げたことで、

「なぜあの人だけ?」「自分の方が仕事をしている。」「会社は普段の仕事なんか見ていない。」

「結局、声の大きい人だけ得をする。」という不満が周囲に生まれることがあります。

そして、一人を引き留めるために出した月3万円が、別の優秀な社員の退職原因になる。

そんなことさえあります。

人手不足の会社で一人辞めれば、残った社員に仕事が集中します。

残業が増える。休みが取りにくくなる。教育する余裕がなくなる。ミスが増える。

サービスの質が落ちる。さらに別の社員が辞める。

そして最終的には、「求人を出しても人が来ない。」と言い始めます。

でも、本当に原因は求人でしょうか。

人手不足になる前に、会社が人を大切にしていたでしょうか

人が辞める。求人を出す。また辞める。また求人を出す。

これを繰り返して、「最近は本当に人が採れない。」と言っている会社があります。

もちろん、少子高齢化によって採用そのものが難しくなっていることは事実です。

しかし、その前に確認してほしいことがあります。今いる社員を大切にしているでしょうか。

仕事が増えたことを見ていますか。責任が重くなったことを見ていますか。成長したことを見ていますか。

困っていることを聞いていますか。感謝を伝えていますか。

そして、その仕事に見合った給与を払っていますか。人を採ることばかり考える前に、

「なぜ今いる人が、この会社を辞めたいと思うのか。」を考える必要があります。

従業員は「経営資源」である前に、人間です

経営の世界では「ヒト・モノ・カネ」という言葉があります。しかし、ヒトだけはモノとは決定的に違います。

従業員には心があります。会社をどう感じているのか。社長をどう見ているのか。

自分が大切にされていると思っているのか。この会社に将来があると思っているのか。

そして、ここで働き続けるか、辞めるかを自分で決めます。人手不足時代だからこそ、

「辞めそうになったら金を出せばいい。」ではなく、「辞めたいと思わせない会社をどうつくるか。」

を考える必要があります。

社員から退職届を出されて、「月3万円上げるから残ってくれ。」と言う前に、一度考えてください。

なぜ、その3万円を今まで上げなかったのでしょうか。

そしてもう一つ。その社員を、会社は一人の人間として大切に扱ってきたでしょうか。

そこに、御社が人手不足になっている本当の原因が隠れているかもしれません。


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