【労務】助成金を取るために会社を壊していませんか?はりぼて就業規則・謎手当・人件費増の落とし穴
2026年08月23日 18:37
「使える助成金はありませんか?」社労士をしていると、よく聞かれる質問です。
もちろん、会社として必要な取組を行い、その結果として助成金の対象になるのであれば、
活用すればよいと思います。
ただし、私は助成金についてかなり慎重に考えています。
なぜなら、助成金をもらうこと自体が目的になると、会社の人事制度・賃金制度・就業規則・人件費構造まで
歪めてしまうことがあるからです。
私が大切だと考えているのは、「助成金を取るために経営するのではなく、会社として必要なことをやった結果、
対象になる助成金があれば利用する」という順番です。
「助成金がもらえるから正社員にする」で本当に大丈夫ですか?
例えば助成金の中には、正社員への転換、賃金の引上げ、労働時間の延長、社会保険への加入、処遇改善などを
行うことで対象になるものがあります。
制度だけを見ると魅力的に見えます。
しかし、本来会社が最初に考えるべきなのは、「いくら助成金がもらえるか」ではありません。
その従業員を本当に正社員にする必要があるのか。その従業員の能力や役割は、引き上げる給与に見合っているのか。
社会保険料の会社負担を含めても、その人件費を継続して負担できるのか。ここを先に検討すべきです。
助成金は一定期間で終わります。
しかし、給与や社会保険料、人員配置はその後も残ります。助成金が終わっても、給与と社会保険料は終わりません。
例えば助成金の利用を目的に、従業員の労働時間を延長して賃金を引き上げ、社会保険に加入させたとします。
一時的に数十万円の助成金を受給できたとしても、その後会社には、給与+会社負担の社会保険料という固定費が
残ります。
対象者が1人ならまだしも、5人、10人と増えれば会社負担は大きくなります。
小規模な会社では、毎月数万円の固定費増加でも年間では相当な金額になります。
助成金の受給額だけを見て、「得をした」と判断するのは危険です。
重要なのは、3年後、5年後にもその人件費を維持できるかです。
能力が変わっていないのに処遇だけ上げると、エース社員が辞めることもあります
もう一つ怖いのが、既存社員との処遇バランスです。
助成金を利用するために、ある従業員を正社員化したり、給与を引き上げたりしたとします。
しかし、その人の能力・責任・会社への貢献度が大きく変わっていなかったらどうでしょうか。
一方で、長年会社を支え、難しい仕事を担当し、後輩を教育し、トラブル対応までしている社員がいる。
その社員から見れば、「自分はこれだけ仕事しているのに、どうしてあの人と待遇がほとんど変わらないのか」
と感じても不思議ではありません。
すると、本当に会社に残ってほしい社員から辞めていきます。
結果として、助成金を活用して人を増やす→ 人件費が増える→ 処遇バランスが崩れる→ エース社員が辞める
→ 生産性が下がる→ 人手不足になる→ さらに採用する→ 人件費がさらに増えるという悪循環に入ることがあります。
「人手不足対策のために制度を利用したのに、結果としてもっと人手不足になった」では、本末転倒です。
助成金のために作った「はりぼて就業規則」が会社を苦しめる。
助成金で注意したいのは、人件費だけではありません。助成金の要件を満たすために、急いで就業規則を変更する
会社があります。例えば、「この規定がないと助成金がもらえない」と言われて、とりあえず条文を追加する。
ところが、現場には説明されていない。実際の運用とも合っていない。雇用契約書とも整合していない。
給与計算にも反映されていない。そんな状態になっているケースがあります。
私はこれを、「はりぼて就業規則」と考えています。助成金の審査を通すためだけに作られた規則です。
しかし、一度就業規則に記載した以上、単なる飾りでは済みません。後になって従業員から、
「就業規則にはこう書いてありますよね?」と指摘されることがあります。
助成金を受給した後に、労務トラブルの原因になる可能性があるのです。就業規則は、助成金申請のための書類では
ありません。会社の実際の働き方をルール化するものです。申請のためだけに継ぎはぎしてはいけません。
助成金のために「謎手当」が増えていませんか?もう一つよく注意したいのが、手当の乱立です。
賃上げや処遇改善をするために、
○○手当
△△手当
特別手当
調整手当
など、理由のよく分からない手当が次々と作られるケースがあります。
問題なのは、手当を作ること自体ではありません。何のための手当なのか、誰に、どの条件で、いくら支給するのか
が整理されていないことです。
支給基準が曖昧なまま手当を作れば、「なぜ私はもらえないのか」「同じ仕事なのに、なぜあの人だけ支給されるのか」
という不満につながります。
さらに給与計算では、割増賃金の算定基礎に含めるのか。最低賃金の計算に含められるのか。欠勤控除するときはどう扱うのか。固定残業代とは別なのか。こうした問題まで出てきます。
賃金体系が複雑になればなるほど、給与計算ミスや未払い賃金リスクも高くなります。
私は賃金設計について、できるだけシンプルにした方がよいと考えています。
助成金を取るためだけに謎の手当を増やし、数年後には誰も支給目的を説明できない。
そんな賃金制度にはしない方がよいでしょう。
助成金を受給できても、会社が安泰になるわけではありません
助成金を受給できたということと、会社経営が良くなるということは別問題です。
実務をしていると、助成金を受給した後に経営が厳しくなったり、休業したりする会社を見ることがあります。
助成金は、売上を作ってくれる制度ではありません。利益率を改善してくれるわけでもありません。
人材の能力を上げてくれるわけでもありません。会社の人員配置が悪い。人件費が重い。離職が多い。
仕事の生産性が低い。こうした問題がある会社が助成金を受給しても、根本的な問題は解決しません。
むしろ制度利用によって固定費だけ増えれば、経営をさらに圧迫する可能性があります。
私が両立支援等助成金を比較的評価している理由
助成金の中でも、私は両立支援等助成金については比較的活用しやすい制度だと考えています。
育児や介護、治療などと仕事を両立させるため、会社が雇用継続のための取組を行い、その負担の一部を
助成する制度だからです。
これは、助成金を取るために無理に人事制度を変えるというより、会社として必要な雇用継続支援を行った結果、
対象になるので申請するという使い方がしやすいと考えています。
私が重視しているのは、この順番です。
助成金は経営の主役ではありません助成金そのものが悪いわけではありません。
適切に利用すれば、会社にとって有益な制度です。
しかし、「助成金があるから採用する」「助成金があるから正社員にする」「助成金があるから給与を上げる」
「助成金があるから社会保険に加入させる」「助成金があるから就業規則を変更する」となってしまうと危険です。
会社経営が先です。必要な人材だから採用する。必要な役割だから正社員にする。能力や責任に見合うから給与を
上げる。
会社に必要なルールだから就業規則に定める。
その結果、「この取組なら助成金も使えます」となるのが理想です。
助成金を取ることではなく、会社を残すことが目的です。助成金申請で本当に考えるべきなのは、
「いくらもらえるのか」ではなく、「制度を利用した後に会社がどうなるのか」です。
給与はいくら増えるのか。
社会保険料はいくら増えるのか。
既存社員との処遇バランスは崩れないか。
就業規則と実態は一致しているか。
謎の手当を増やしていないか。
助成金終了後もその人件費を負担できるか。
ここまで確認して初めて、制度を利用するかどうかを判断すべきです。
助成金を取るために会社を変えるのではなく、会社として必要なことをやった結果、対象になる助成金が
あるなら取る。
秋山社会保険労務士事務所では、助成金申請だけでなく、就業規則、賃金制度、社会保険、人員配置、
給与計算などを含め、制度利用後に会社へどのような影響が出るのかまで確認しながらご相談に対応しています。
助成金を検討されている会社様は、申請する前に一度、「助成金をもらった3年後、この会社は今より良くなっているか」を考えてみてはいかがでしょうか。
秋山社会保険労務士事務所では、現在の給与計算が法令や社内規程に沿って適正に行われているかを確認する
「給与計算セカンドオピニオン」**を行っています。また、給与計算だけでなく、労働条件通知書、就業規則、
36協定、年次有給休暇管理、社会保険・雇用保険など、会社全体の労務管理を確認する「労務健康診断」にも
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